歴史:1985 – 1990(Kramer社時代)

  SPECTORの歴史:1985 – 1990 (Kramer社時代)
~「成功には、時として思いもよらない代償が伴う」~
 

 

1983年が終わる頃には、Spector Guitar 社はNS-2™の発売による大成功をおさめ、多くの著名なプロミュージシャンから圧倒的な支持を受けるようになっていました。

1985年の初め、スチュワートはニュージャージーに拠点を置くKramer Guitars社から、買収の話を持ちかけられました。1975年創業のKramer社はもともとエレキギターのデザインと製造を中心に行っていました。1980年代初頭、Kramer Guitar Companyは爆発的な人気を誇るモンスターバンドVan Halenの看板ギタリストである、エドワード・ヴァン・ヘイレンとの関係で一躍有名になりました。エディ本人も積極的に製作に携わった彼のシグネチャーモデルのラインナップにより、Kramer社は世界有数のギターメーカーへの成長を遂げることとなりました。

 

USA SPECTOR BY KRAMER NS-2 BASS™ 
USA SPECTOR BY KRAMER
NS-2 BASS™ 
©Photo Courtesy Todd Cooke
この時期における典型的なデザイン。ニュージャージー州ネプチューンで作られたUSAモデルは、スチュワートがニューヨークのワークショップで作ったモデルの細部に若干の手が加えられただけのモデルでした。

Kramer Guitars社とエンドース契約を結んでいたギタリスト、エディ・ヴァン・ヘイレンとサミー・ヘイガーが特集された1987年10月号のGuitar Player Magazine誌の表紙。皮肉にも、エディが手にしているのはKramer社による買収前に制作されたブルックリン製NS-2™。

 

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顧客層拡大のため、実績のあるベースブランドを買収するチャンスを狙っていたKramer社にとって、小さいながらも評判の良いスチュワートの会社は絶好のターゲットでした。Kramer Guitarsの経営陣はスチュワートに対し、非常に積極的に交渉を持ちかけてきました。スチュワートは、この申し出に乗れば、成長過程の会社経営にまつわる様々な問題を解決できるのではないか、そしてより優れたギターを作るべく、これまで以上にデザインや製造に集中できるようになるのではないか、と考えたのでした。

 

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SPECTOR BY KRAMERモデルが、Wingerのキップ・ウィンガーといった著名なアーティストに使用されたことで、NS-Bass™はより広く知れ渡っていくことになっていったのです。
この写真でキップが弾いているのはNS-2A™のインポート・モデル。

そこで、Spector Guitar Company時代に作られたモデルについては、SPECTOR®ブランドとしてその名を残すことを条件に、スチュワートはこの買収を承諾しました。Kramer社の上層部はこの条件を受け入れ、それらのラインナップには「SPECTOR: A DIVISION OF KRAMER GUITARS」というラベルが付けられることになりました。

まさかこの時の決断が、1990年におけるKramer Guitars社の劇的な財政破綻を受け、Kramer社が持つ他の製品と共にSPECTOR®ブランドが市場から姿を消してしまう危機を防ぐための戦いを余儀なくされることになろうとは、当時のスチュワートには知る術もありませんでした。しかしながらSPECTOR®の商標がKramer Guitars Companyの知的財産に含まれていたことから、Kramer社倒産後も、スチュワートは新しく立ち上げた自身の会社でその名を冠したギターを販売する権利を取り戻すために、なんと8年間も裁判で争うことになったのでした。

買収の取引が終わった時点で、スチュワートはニューヨーク州ブルックリンのSpector Guitar社のワークショップを閉鎖し、Kramer社のネプチューンにある工場に移転することになりました。スチュワートは引き続きコンサルタントとして、SPECTOR BY KRAMERのラベルが付けられたベースの製造を監修していました。

 

Kramer社のギターは、様々な委託メーカー、それも大半が国外メーカーから取り寄せられた部品で作られていました。ここで特筆すべきは、Kramer社はSPECTOR BY KRAMERモデルのベースも同様の方法で製造することを希望していたのに対し、スチュワートが断固として反対した、ということです。そこで折衷案として、すでに広くその名を知られていたハンドメイドのUSAモデルと低価格の韓国製モデルの2つのSPECTOR BY KRAMERラインナップが作られることになりました。1990年にKramer社が倒産するまで、SPECTOR BY KRAMER USAシリーズのベースは、Kramer社で唯一のアメリカ製の製品でした。

 

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「2倍の明るさで燃えるロウソクの寿命は、普通のロウソクの1/2…」

 

Kramer社がSPECTOR®の韓国製ラインでの製造を決定したことにより、新たにラインナップされたのが、NS-2A™、NS-2B™、NS-2C™の3モデルです。NS-6™をベースにしたエレキギターのラインナップも同様に加えられました。そしてこれらのギターもインポートベースのラインナップと同様のスタイルでモデル名が付けられました。

納得できる品質を保つために韓国製Spectorの品質管理を徹底するために、スチュワートはその製造工程や素材の選定にも目を光らせていました。この時の経験からスチュワートは韓国工場の品質基準とその勤労モラルに畏敬の念を抱くようになり、Kramer社倒産後も新たにStuart Spector Designs, LTD.としてPROFESSIONAL SERIES™製造の契約を結ぶことを決めたのでした。

つまり韓国では、1986年以来同じビルダー達がSPECTOR BASSES®を作り続けているということになり、これはPROFESSIONAL SERIES™の非常に優れたクオリティと洗練された品質という形となって表れているのです。

 

 

Kramer社のネプチューン工場閉鎖に伴い、スチュワートのキャリアは再び振り出しに戻りました。スチュワートは、自宅ガレージで、オーダーメイドのカスタムギター製作を始めようと考えていました。その話を聞いて、PJルバルをはじめとする数多くの熱心なSPECTOR®のフォロワー達は、再びSPECTOR®製品をフルラインナップで販売してくれるよう考え直してほしいとスチュワートに懇願したのです。

 

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Spector By Kramer NS-6 Electric Guitar™

Spector By Kramer NS-6 Electric Guitar™
NS-Curved Body Style™をそのまま6弦のエレキギターにしたもの。
このギターのうち150本はSPECTOR®がKramer社の傘下にあった頃に作られました。
スチュワートはこのモデルのコンセプトを見直し、新たにARC6™シリーズを作り上げました。

 

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